Lost Knight
〜迷子の騎士〜

強さが欲しい。
誰にも負けない強さが欲しい。
でも、それは何かを傷つけるための強さじゃなく、
何かを守る為の強さでありたいと思う。
支配したいのではない。
守りたかった。
この国を、あたしは守りたい。
『では、強くなれミナミ』
なってやるよ。強くなってみせる。
 
 
 
 
目が覚めた。
むくりと起きあがり辺りをぼーっと眺めているうちに少しずつ頭がはっきりしてくる。
ここは、ロンラ・フィルネ。『太陽の国』
自分はここの戦争を終わらせるためにここに来たんだ。
うん、と一人で頷き、ベッドから下りようとしてぎょっとする。
「な、なんだ…。これ…」
自分の格好を見て思わず唸り声をあげる。
いつの間にか純白のワンピースに着せ替えられていた。
ワンピースなんて小学生1学年を過ぎたころから着ていない気がする。
恥ずかしさを感じて、自分の着ていた服を探そうとベッドから下りて、
周りを眺めた瞬間、またぎょっとした。
部屋が一人で使うにはあまりに広いのだ。
しかも、まわりのカーテンなどには必ず薄ピンクのレースが使われている。
ベッドもよく見ると薄ピンク色だった。
「う…わぁ…。何だこの乙女部屋は…」
普段あまり薄ピンクなどという色に縁がないミナミは思わずそう呟いた。
とりあえず、この部屋から出て生地の色を変えてもらおう。
そう決心して、ドアを押し、廊下に出てみる。
すると、すぐ外にユウヤが立っていた。
「ん。あぁ、おはよう。髪がすごいことになってるけど、わざと?
 だとしたら、全然全く似合ってないっていうかむしろおかしいよ。直したら?」
「おはよ。赤月。わざわざどうもアリガトウ。お前も微妙に寝癖直ってないけどな。
 微妙なだけに逆に目立ってる。余計格好悪い」
冷笑で皮肉を言うユウヤに嘲笑で皮肉を返し、2人で異様に微笑みあう。
「…何やってるのよ」
呆れたように笑いながらアリーナが現れた。
ミナミの格好を眺め、満足そうに頷くとミナミに微笑みかける。
「おはよう。ミナミ。昨日はよく眠れた?」
「お陰様でよく眠れた。けど、この服は何?」
ミナミが苦い顔をして両手を広げてみせると、アリーナが苦笑した。
「ルーシャがね、ミナミの服を着替えさせるって言って聞かなくて。
 勝手に着替えさしてもらったわ。ごめんなさいね。でも、よく似合ってるわ」
「んー…。ありがとう。でも、ズボンとかってないのか?」
「あるけど、女の子がはくのはあまりよくないことなのよ」
「えぇぇぇっ!!!」
思わず大声を上げる。
ズボンがはけれないなんて聞いていない。
ミナミは制服を着なければならない時以外は必ずジャージという、女の子らしさの
かけらもない生活を送ってきている。
今更こんなピラピラしたスカートをはくことを強要されるのか。
「頑張れっ。オンナノコ!」
ユウヤがからかう。
考えるより先に体が動き、結果ユウヤの横っ腹に回し蹴りを食らわすこととなった。
アリーナがユウヤをちらりと見、ミナミに向かって心配そうに問う。
「スカート、そんなに嫌?でも、戦闘服もスカートで新調しちゃったと思うわよ」
「せ、戦闘服までスカートなのかっ」
アリーナが頷く。
「大丈夫よ。軽くて防御力に長けてるわ。動きやすいしね」
「にくいよ!どう考えても!」
「まぁ、そんなことは後にしましょう。それより朝食ね」
ミナミにとってはどうでもいいことなどではなかったのっだが、にっこりと笑って、
スタスタと歩いていってしまうアリーナに何も言うことができず、しかたなくユウヤと
共にアリーナの後を追う。
朝食をとる部屋は以外と近くにあった。
アリーナが扉を開けると、すでにみんな揃っていた。
ほぼ昨日顔を合わせたメンバーだったが、一人だけ知らない小さな男の子がいた。
男の子がこちらを見、ミナミと目が合うとかわいらしく微笑んでみせた。
「おはよー。ミナミさん。昨日挨拶できなくてごめんねー」
気安く声をかけながら自分の席から立ち上がる。
こちらに向かってくると、思ったよりも小さく、幼いことがよくわかった。
ぺこりと一礼してから、小さな男の子は自己紹介を始めた。
「ボクはウィゼ・アクラーテス。アイリスの付き人だよー。
 昨日はねぇ、色々大変で挨拶できなかったんだ。ごめんなさい」
「いや、全然気にしてない。でも、アイリスって子は?」
ミナミが周りを見渡し、見知らぬ顔がないか探したが、昨日紹介し合った顔ぶれば
かりだった。ウィゼが少し困ったように首を傾げ、
「うーん。アイリスは今日は自室から出てこないかもしれない。
 ごめんね、ミナミさん。アイリスに代わってボクが謝ります」
そういって、もう一度ごめんなさい、と言ってぺこりと頭を下げる。
ミナミが慌てて首をふる。
「いいって。気にしてない。それより、飯食おう?冷めるだろ」
ウィゼが顔をあげ、幼い顔でにっこり笑う。
「うん。ありがとー。それとね、初対面の人には必ず言っておくんだけど…」
少し困ったような顔で首を傾げる。
何?、とミナミが促すと少し笑って、
「あのね、ボク何歳に見えます?」
「え?7,8歳くらい…」
正直に答えるとウィゼが小さく笑った。
「うん。そうだよね。でも、ボク実はミナミさんより一つ上なんだ」
そう言って、それじゃ食べよー、と元気よく席に戻っていった。
ミナミはユウヤに頭をはたかれるまでそこを動かなかった。
 
「昨日はよく眠れました?」
ルーシャが上品に料理を口に運びながらミナミに優しく聞く。
うん、と頷くとルーシャは静かに微笑んだ。
「服も、よく似合っていてよかったです。勝手に着替えさして申し訳ありません」
「うん…。いや、うん。大丈夫。気にしてない」
本当のところ、結構気にしていたのだがここはあえて我慢することにした。
「朝食がすみましたら、広間に城の者たちを集めます。
 城の者に挨拶がすみましたら、国の者に挨拶を。それから軍にも挨拶を。
 その後に、ナァレ様のもとにご案内します」
「…軍もあるのか?」
ルーシャが苦笑いをする。
「…只今、一応戦争中ですので…」
「あ、うん。そうだよな…」
2人が黙ると食堂がしん、と静まりかえる。
戦争の話をするべきではなかったか、とミナミが反省していると、ローグが静かに
口を開いた。
「少し、ここで今現在のことをお話させていただいてもよろしいですか」
ミナミがローグに目を向けると、ローグもまっすぐにこちらを見ていた。
柔らかく、けれど悲しそうに微笑みながら話を続ける。
「軍は第6部隊まであり、それに加え、救護部隊があります。
 第一軍、二軍はルーシャ様の監督です。三軍、四軍をアリーナ様が。
 五軍、六軍はアイリス様ですね。これは…多少反発もあるようですが…。
 そして、ミナミ様には全てを率いていただきます」
ユウヤが眉をひそめ、
「ねぇ、ローグ。それさ、別に食事中にする話でもないよね。後にしたら?」
小さな子のように口をとがらせ、文句を言う。
しかし、ローグはおかまいなしに続ける。
「僕らは、戦場で戦う際や、普段の生活のなかであなた方能力者をサポートし、
 守る役目をいたします。あまり好きな呼び方ではありませんが、従者ですね」
「ローグ、後にしなってば」
ユウヤがむきになって止めようとするが、ミナミがそれを制した。
「…全部、あたしが知っとかなきゃいけないことなんだから、後でも先でも一緒だ」
続けて、と促すとローグが頷く。
みんなが、静かにローグの話を聞く体勢になる。
「まず、軍の説明をいたしますと、ルーシャ様の部隊は主に防御ですね。
 そして、アリーナ様の部隊は接近戦部隊です。
 アイリス様は遠征攻撃が主です。
 もちろん、口で説明いたしますと簡単ですが、それをどのように率いていくかが、
 問題であり、あなたの役目なのです。
 ルーシャ様たちの部隊、というのはあくまでその部をまとめておくこと。
 指導するのは、もちろんあなたの役目なのです、ミナミ様」
「…そうか。どんな風に軍を動かすかが問題なんだな」
「その通りです。そのために、まずあなたが武力と能力を磨かねばなりません。
 戦術を充分に磨くのです。そして、軍の者たちに信頼されなければなりません」
「うん。それが一番難しそうだ」
ミナミが短くため息をつくと、ローグが微かに笑った。
「そうですね。けれど、その点では僕はあなたは大丈夫だと思っています。
 きっと、誰よりも信頼される統率者となるでしょう」
ふと、ローグが口をつぐむと今度はアリーナが口を開いた。
「この際だから、だいたいのことを説明しておくわ。
 まず、今戦いは一時休戦状態なの。どちらも能力者が一人欠けているから。
 そこで、私たちはそのまま二度と戦争しないことを持ちかけたのだけども…。
 見事につっぱねられたわ。とりあえず、今は休戦しよう、としか言わないの。
 何を考えてるんだかちっともわからないわ。
 とりあえず、あなたが帰って来たからあっちに知らせて話し合ってみようと
 思ってるのよ。近いうちに会合を開こうと思ってるわ。ミナミにも出席してもらうわ」
「了解。あたしは全然何も知らないけど」
「問題ないわ。論述などは全て私が引き受けているから」
アリーナが不敵に笑う。
 
…うん。こういうのかなり強そうだ…。
 
「それではミナミ。食事をすませましたら城の者に招集をかけます。
 そこで、一言ご挨拶をしてください。ローグ、広間に皆を集めてください」
ローグがスッと立って食堂を出ていく。
「ボクも行きます」
ウィゼが軽やかな足取りでローグを追う。
「食事をすませましたら、我々も広間へ向かいましょう」
にっこり笑ってまた優雅に食事に手をつける。
ミナミはこれからの多忙さを想像して小さくため息をついた。
 
 
 
食事が終わり、広間に向かう。
なにもかもがミナミにとってはめずらしくて、落ち着きなく辺りを見回す。
「ちょっと、キョロキョロキョロキョロうっとおしいよ」
ユウヤが迷惑そうに目を細める。
「うっさいな。めずらしいんだよ。しょうがないだろ」
負けずに言い返すとふぅ、と意味ありげなため息をつかれた。
文句を言ってやろうかとも思ったが、口を開きかけてすぐにやめた。
それよりも、これからのことを考える必要があった。
自分は、何も知らない。そのぶん、努力しなければならない。
戸惑うことばかりで、自分を見失わないようにしなければならない。
容易なことではないのはわかっている。
でも、強くなると決めたのだから。
自分の顔が写りそうなくらい綺麗な床から視線をあげる。
下を向いてちゃいけない。前を見るんだ。
すぐ前には、ユウヤの背中があった。
その隣にはナータの大きな背中。
その前にはアリーナの背中とルーシャの細い背中。
自分はまだ、こんなに後ろにいるんだ。そう思い知らされた気がした。
「ミナミ?つきましたよ。」
ルーシャの柔らかな声で我に返った。
「何、ぼさっとしてんの。ちゃっちゃと挨拶すませて来なよ」
ユウヤが憎たらしい口調で言う。
「準備はよろしいですか?」
ホッとするような柔らかな笑みを浮かべるルーシャにうん、と小さく頷く。
アリーナとナータが広間の扉を開く。
中にあったざわめきが小さくなり、消えた。
人々の顔が一斉にミナミに向くのがわかった。
ルーシャに背中を押される形で広間に足を踏み入れる。
「何か、一言言ってください」
小さな声でルーシャが言う。
顔から火が出そうなくらい緊張していた。
こんな大勢の人の前に立つなんて初めてだった。
何か、言わなければと思い、必死で口をぱくぱくさせるが何も出てこない。
しばらくそうやってざわめきが少し帰ってきたころにやっと言葉が出た。
それは、とても短くて、拍子抜けするくらいあたりまえの言葉だった。
「か、帰りましたっ」
ざわめきがやんだ。
何か、もう一言くらい言わなければと思いもう一度口を開く。
「あ、あたし、帰ってきました」
歓声が起こった。
自分でも何が言いたかったのかよくわからなかったけど。
それでも、こうやって喜んでくれてるのはとんでもなく嬉しく感じた。
短い言葉の中で、こんな大勢の人に伝わるものがあったのなら。
それだけで、涙が出そうになるくらい嬉しかった。
守りたいものがある。
守りたい人たちがいる。
だから、自分は誰よりも何よりも強くなる。
強くなれる。
誓おう。この人たちの前で。
「あたしは、強く強くなります」
小さく小さく呟いた言葉。
歓声に紛れて聞こえることのない言葉。
でも、そばで、すぐそばに立っていたユウヤが静かに笑っていた。
「俺も、強くなります」
いつものからかうような口調ではなく、静かな誓いだった。
誓ったよ。今、ここで仲間と一緒に。
共に歩む仲間と一緒に。
 
 
 
 
 
 
 
…………ハッ。(嘲るような笑い)
一ヶ月以上ほっといてどこまでひっぱるつもりなんでしょう、あたしは。
ひっぱりすぎ。回りくどすぎ。どうしよう。何がなんだかわからない話だよ、コレ。
もう、何も言い残すことはありません。
このまま逝かせてください…っ!(勝手に逝け
駄文すぎて、ごめんなさい。でも、続きます。
そろそろ戦いマス。(あっそ